基板の映像をテレビに映す/録画する
AD725 RGB to NTSC ビデオエンコーダの製作
2010年1月 「基板をテレビに映して楽しみたい、プレイ映像を録画したい。」 それを実現する、ビデオエンコーダを製作しました。 基板のアナログRGB信号をNTSCビデオ信号に変換します。 10年前ならCXA1645を使って製作でき、そのようなキットも販売されていました。 現在ではCXA1645はとっくにディスコン、入手困難です。 ではそれに代わるICは何か、同じ物を作れるか、ということでやってみました。 この記事では製作したビデオエンコーダの回路図、部品一覧を公開しています。 解説にはちょっとコラム風の脱線話も混ぜてみました。 記事中では基板を録画する話として書いていますが、テレビに映すのも同じ事なので その都度読み替えてください。「録画する」→「テレビに映す」 【キーワード】 AD725、ビデオエンコーダ、ビデオコンバータ、アナログRGB、NTSC、 アーケード基板、基板 録画、基板 テレビ、ビデオ出力、KIC'S-91、 LM340T5、HD74HC04P、ダイセン D016、CXA1645、CXA1621 |
製作前に
■話の前提として… 近年、テレビ放送や映像ソフトはHD(High Definition)が主流になってきています。そういった映像環境で基板を録画するときは、HD対応機器に合わせて基板の出力をトランスコードするのが今時のやり方です。 しかしこの記事では、水平周波数15kHzの基板を従来の(HDTVではない)テレビ、録画機器、PCのキャプチャカードにつなぐものとして話を進めます。今回の製作が、従来の映像環境で利用してきた物と同等の物を作るという趣旨だからです。 ■水平周波数 基板の映像を録画機器へ入力するには、まず映像の水平周波数が15kHzでないといけません。 ビデオデッキ、HDDレコーダー、PCのビデオキャプチャなどは15kHzの信号を受け取るようにできています(HD映像の録画は話が違います)。 Type-XなどJVS規格のシステム基板でリリースされるタイトルでは、水平周波数は31kHzが主流です。これを録画するにはダウンスキャンコンバータで15kHzに変換する必要があります(RGB-31kHz → RGB-15kHz)。映像出力が31kHz/15kHz両対応のタイトルは15kHzモードで起動してください。 一方、JAMMA規格の基板もまだ現役です。こちらはほとんどのタイトルが水平周波数15kHzです。 しかし例外的に水平周波数が24kHzの基板があります。これを録画するにはアップスキャンコンバータ/ダウンスキャンコンバータを組み合わせて何とか15kHzに変換する必要があるのですが、上手く変換できない場合もあります。24kHzの基板を録画するときは、はっきり言って諦めも大事です。
■信号形式 録画するには水平周波数の他に信号形式も合わせないといけません。 基板からの映像出力はアナログRGB形式です。録画機器へ入力するのは基本的にNTSC規格のビデオ信号です。黄色い端子でお馴染みのコンポジットビデオやSビデオ信号で入力します。 従って基板の映像を録画するにはRGBからNTCSに変換する仕組みが必要になります。 そのような製品が既にあります。 マイコンソフト社の「XAV-2s」というビデオエンコーダです。(2010年12月現在販売中) http://www.micomsoft.co.jp/xav-2s.htm aitendoブランドの「RGB->VIDEOコンバータ[RGB-VIDEO-CV04N]」とういう半完成キットもあります。(2010年12月現在販売中) http://www.aitendo.co.jp/product/2126 特に自作にこだわらなければ、これらの機器を購入して、基板とテレビ/録画機器を接続して、目的達成です。この記事も終わり。 …ですが、ここは電子工作をするサイトなので、製品を購入しない場合の話を進めます。 お待たせしました。ここからが製作の本題です。 |
ビデオエンコーダIC AD725
■ビデオエンコーダ 製品を使わず同様の機器を自作するには、ビデオエンコーダという種類のICを使います。 2000年頃まで秋葉原の秋月電子でRGB→NTSCビデオコンバータのキットが販売されていました。 CXA1645というビデオエンコーダICを使ったキットで、説明書の奥付には「2000/09」と書いてあります。残念ながらこのキットは現在販売されていません。 CXA1645はプレステやサターンにも使われていたICです。 ビデオエンコーダのキットがなくてもCXA1645を使って同じ物を自作できないか? …残念ながらCXA1645は既にディスコン(生産終了)、入手困難なICとなっています。 ジャンクでプレステやサターンを探してICだけ再利用すれば? …既に確保しているならそれでよいですが、今となってはジャンク品も入手困難です。 幸いRGB→NTSCのビデオエンコーダICはCXA1645だけでなく、現在も入手できるICが何種類かあるようです。例えば「RGB NTSC ビデオエンコーダ」で検索すると、ANALOG DEVICES社のAD723/AD724/AD725が見つかります。 今回の製作ではAD725ARを使いました。2009年5月、イーエレで購入。 ■AD723/AD724/AD725 AD723 http://www.analog.com/jp/audiovideo-products/video-encoders/ad723/products/product.html 28ピンTSSOPパッケージ。4FSCクロックを入力して使う。電源は2.7〜5.5V AD724 http://www.analog.com/jp/audiovideo-products/video-encoders/ad724/products/product.html 16ピンSOICパッケージ。FSCまたは4FSCクロックを入力して使う。電源は5V AD725 http://www.analog.com/jp/audiovideo-products/video-encoders/ad725/products/product.html AD724を4FSCクロック専用にし、少し機能を加えたもの。 コンポジットビデオ出力を向上させる輝度トラップを追加で組み込める(Sビデオ出力には関係なし)。 FSCとはビデオ信号のカラーサブキャリアの周波数のことで3.579545MHzです。4FSCはその4倍で14.31818MHzです。 どちらもこの値ズバリのクリスタル発振子があります。それで発振回路を組んでICへ入力します。 発振回路を組むとき、クリスタルの足にトリマコンデンサ(可変容量コンデンサ)を並列に付ければ微妙な周波数調整ができるようになります。 発振器(オシレータ)を使えば発振回路を組む手間が省けますが、相手が基板なので場合によっては残念なことになります。基板は映像周波数のばらつきが激しいので、ビデオエンコーダに周波数を微調整できる機能を持たせた方がよいかもしれません。 ここで言う周波数の微調整機能とは、発振回路に細工をして14.31818MHz付近で微妙に周波数を変更する仕組みのことです。スキャンコンバータの意味ではありません。 まずは手軽にオシレータを使って製作し、基板をテレビに映してみて微妙に惜しい感じの映りだったら微調整の効く発振回路に取り替えてみることにします。 ■AD725データシートの内容について AD725には日本語のデータシートがあります。このデータシートがすごい! ビデオエンコーダの参考書かと思うほど1冊丸ごと詳しくて分かりやすいです。隅々まで読むことをお勧めします。 以下、注意点をいくつか。 4ページ「ピンの説明」 説明文がおかしいところがあります。
(外部CSYNCを使用する場合、+2 V超にセットする) 原文:(if using external CSYNC set at > +2 V) 外部CSYNCを使用する場合はVSYNCをロジック・ハイに固定し、HSYNC(ピン16)にCSYNC信号を入力するということです。 12ページ「TV上でのVGA出力の表示」 勘違いしないよう説明をよく読んでください。PCの画面をテレビに映せるようなことが書いてありますが、これはビデオカードから15kHzインターレース出力ができることが前提です。通常のVGA画面(ノンインターレース31kHz)の信号をAD725に入力しても正常なビデオ信号は出力されません。 アナログ・デバイセズ社は1998年2月4日のニュースリリースでAD725の発売を発表しました。 当時のPCにはドライバの設定で15kHzインターレース出力ができるビデオカードがちらほらあったようです。データシートはその時代のパソコン事情に基づいて書いてあります。今時の感覚で31kHzのつもりで読むと、このビデオエンコーダを正しく使えません。 AD723/AD724/AD725にスキャンコンバータ(周波数変換)の機能はありません。あくまで15kHzのアナログRGB信号をNTSCビデオ信号にエンコードするためのICです。
|
心構え
■ビデオエンコーダ製作前の注意事項 後回しになりましたが、ある意味一番重要なことを説明します。 基板の映像出力の周波数には明確な規定がないので、基板メーカーが独自に作り込んでいます。そのため正しい周波数のビデオ信号に変換できず、テレビに映したり録画することが困難な基板が多々あります。具体的には、白黒になる、虹色になる、画面からはみ出す、ゆがむ、そもそも映らない、などの症状が出ます。テレビや録画機器側の調整で改善することもありますが、大抵はどうにもなりません。 先述の「XAV-2s」には周波数微調整の設定が何段階もありますが、それでもフォローできない基板はあります。そのような基板をテレビに映したり録画することは諦めてください。基板の設計上、どうしようもないのです。 筐体のモニタが「ちょっとおかしな周波数の基板」でも画面を映すことができるのは、テレビや録画機器より幅広い周波数に対応できるよう作られているからです。おかしな周波数を正しい周波数に直しているのではなく、モニタをおかしな周波数に合わせているのです。 従って、モニタにちゃんと映っているからといって、モニタの配線から信号を横取りして録画しようとしても、おかしな周波数のままなのでやっぱり録画できません。 |
製作
動作確認
コネクタのピンアサイン
コントロールボックス「KIC'S-91」の出力コネクタはDIN8です。これをPC-TV455など15kHzが映せるPCモニタへ接続するための、D-SUB15(2列)に変換するケーブルがあります。 それに合わせてビデオエンコーダのRGB入出力コネクタもD-SUB15にしました。 そして、そのようなわけでKIC'S-91のD-SUB15はPC-9801のディスプレイ端子のピンアサインと似ています。中途半端に似ているのが困ります。 C-SyncがPC-9801のH-Sync/V-Syncにあたるピンの両方に出ていることがちょっとクセモノで、回路図の切り替えスイッチとスルー出力の辺りで少し悩みました。 KIC'S-91のサウンド左右がPC-9801と逆ですが、これは気にしません。そもそもJAMMA規格で音声出力はモノラルなのです。コントロールボックスのステレオ出力の正体は、モノラルを単純に二股にして片方を逆相で出力したものです。
KIC'S-91 DIN8 本体DIN8メスを外側から見た図 |
部品について
AD725の他に特別な部品はありません。 基板のC-Syncを使うとき、シンクセパレータ(お馴染みLM1881N)は不要です。 AD725 AD725AR/ARZは現在も製造中なので、その意味では入手困難なICではありません。 しかし個人が購入できる形で扱っている店を見付けるのは難しいかもしれません。 自分は運良くイーエレでAD725ARを見付けることができました。 製作が終わって改めて調べたところ、Digi-Keyやチップワンストップで1個から購入できることがわかりました。どちらもAD725ARZを扱っています(AD725ARをRoHS対応にしたもの)。 ※Digi-Keyは送料が高いので、これ1個だけの買い物はお勧めしません。 ※チップワンストップは一般消費者としての利用(個人の趣味での購入)はできず、 個人事業主や企業の担当者といった立場からの利用に限られます。[FAQのページ] 2013/04 追記 昨年末頃から何とAmazonでAnalog Devices Inc.直々に販売していました。→AD725ARZ オシレータ(発振器) 今回の製作では正方形型を使いました。長方形型でも使えます。大きさが違うだけです。 配線が増えますが、京セラ「EXO3 14.31818MHz」でも構いません。例えば、秋月電子で250円。 発振回路の部品の参考 発振回路を組む場合、AD725のデータシートに掲載されている回路を参考に部品を揃えてください。 トリマコンデンサは左右どちらにも何回転でも回ります。1回転したところで容量が元に戻ります。
3端子レギュレータ 回路は5Vで動作します。9Vや12VのACアダプタを使う場合、またはコントロールボックスや筐体の電源ユニットの12Vを使う場合、3端子レギュレータで5Vに落として回路につなぎます(回路図のVCCはこの5Vから取る)。 3端子レギュレータは、数100mAタイプでは少ないので1A以上のタイプにします。 部品一覧には書いていませんが、発振防止のコンデンサも忘れずに。LM340T5のデータシートでは入力側0.22uF、出力側0.1uFとなっています。 今回の製作ではどちらも0.1uFにしました。CXA1645を使った秋月のキットがLM340T5 + 0.1uF + 0.1uFになっており、正常に動作しているのでそれと同じにしました。 変換基板+両端オスのピンヘッダ AD725(SOP 16ピン)を2.54mmピッチの基板に乗せるため、ダイセンの変換基板D016を使います。 これは5個パック500円の商品ですが、店によってはバラ売りしていることもあります。 例えば、千石電商で1個170円(店頭価格)。割高です。 嬉しいことに若松通商ではバラ売り、ピンヘッダ付きで販売しています。しかも安い。WAKA-16 コネクタ類 R,G,B,各Syncの入出力コネクタは自由に決めてください。今回の製作ではKIC'S-91に合わせてD-SUB15(2列)を使いましたが、他にこのコネクタを使う理由はありません。 電源にACアダプタを使う場合、受け側のジャックを用意するわけですが、形状をよく確認してください。ACアダプタのプラグと微妙に大きさが合わないものを買ってしまい、差し込めなかったということはよくあります。それは以前の私です。プラグ/ジャックの外径、内径、規格名を確認しましょう。 店にACアダプタを持ち込み、その場で差し込んで確認すれば確実です。その際は店員に相談してから実行してください。 LED パイロットランプ。お好みで。回路図にも部品一覧にも書いてありません。 |
部品名 | 部品番号 | 値 | 個数 | 参考価格/備考 |
ビデオエンコーダIC | U | AD725AR(ARZ) | 1 | 1300円(イーエレ) |
オシレータ(発振器) | OSC | 14.31818MHz | 1 | 正方形型100円 |
抵抗 | R1-R5 | 75Ω [紫緑黒金] | 5 | 1個5円/100個100円 |
積層セラミックコンデンサ | C1-C3,C6,C8 | 0.1uF [104] | 5 | 10個100円 |
電解コンデンサ | C4,C5 | 220uF | 2 | 1個20円 |
電解コンデンサ | C7,C9 | 10uF | 2 | 1個10円 |
小型スイッチ | SW | 1回路2接点 | 1 | 4個100円(秋月電子) |
その他の部品 | ||||
3端子レギュレータ | -- | LM340T5 | 1 | 2個100円(秋月電子) |
SOP(SOIC)変換基板 | -- | ダイセン D016 | 1 | 210円(若松通商 バラ売り、ピン付き) |
両端オスのピンヘッダ | -- | 8ピン | 2 | |
Sビデオ端子(メス) | -- | -- | 1 | 100円(秋月電子) |
余談ですが
記事中に出てきた「基板接続以外の用途」とは、マイコンと接続してみるということです。 以前、マイコンで白黒のコンポジットビデオ出力をする製作をやりました。 「AVR ATtiny2313 ビデオ出力 ブロック崩し〜アナログ入力〜」 ここからさらに(マイコン1個で)カラー処理をするのは難しそうです。 それならビデオ出力処理を今回製作したビデオエンコーダに任せれば、と考えました。 そしたら、やっぱりそんなことをとっくにやってる人がいました。Uzebox できるんですね。面白そうです。 |
久しぶりに基板関係の工作ができて満足です。 今回の製作物と記事はとても意義のあるものだと思っています。 ビデオエンコーダを必要とする人は、あまりいないかもしれません。 いざ必要となったときは、記事中で紹介した製品を買えば用は足ります。 しかし自作で味わう面白さは魅力的です。 ネットで自作のビデオエンコーダを検索すると、CXA1645を使った製作例が 見つかります。自分も秋月で買ったキットを持っていて、基板のプレイを PCでキャプチャするときに使っています。 ですがCXA1645は、現在ではもう手に入らないと思ってよいICです。 せっかく製作記事を見付けても同じ物が作れません。 別のICを見付け、同じ機能の物を自作できた。そのICはまだしばらく手に入る。 「AD725 RGB to NTSC ビデオエンコーダの製作」 これからビデオエンコーダを自作する人は、是非この記事を参考にしてください! |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||